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キャリア支援・人材育成へ向け、企業が取り組むセルフ・キャリアドックの魅力

永年に渡って働いてきた従業員であっても、3年後5年後にどのような働き手になっていたいのかと具体的な自分の姿を描いている人は少ないのではないでしょうか。京都市の老舗食品製造・販売会社「株式会社 半兵衛麸」は、従業員一人ひとりが、将来なりたい自分、ありたい自分を見つけるためのキャリア支援のきっかけ作りとして「セルフ・キャリアドック」を導入されました。今回は、同社顧問の水之江 徹さんに、ジョブ・カードを活用したセルフ・キャリアドック導入のメリットや導入後の課題解決への取り組み、従業員の意識変化、さらなる業績向上への期待などについて伺いました。

投稿日:2024年9月13日

目次

社員一人ひとりのキャリア形成の支援としてセルフ・キャリアドックを導入

「株式会社 半兵衛麸」は元禄2(1689)年創業。京麸(なま麸 焼麸)、京ゆばなど、京食材の伝統を守り続けて335年の歴史を誇る京都の老舗です。京都はもちろん、全国に名の知れた同社ですが、猛威をふるったコロナ禍の影響で、堅調だった業績が2020年から22年の3年間は業績がマイナスに転換しました。

2023年にはプラスへ転換を果たしましたが、苦境を乗り越えるための人材育成・キャリア支援が、依然として課題であると感じられたそうです。
その解決に向けて、新たな経営ビジョンや人事制度をリリースしました。それに伴って、社員の方々に自らのキャリアについて考えていただく必要が生じたことが、セルフ・キャリアドックの導入に繋がりました。

持続的な成長に向けて新人事制度をリリース

水之江さん
「コロナ禍が沈静の兆しを見せた2023年は、外食・観光需要の回復に伴う飲食の売上増と併せ、当社では生産性向上、コスト削減など全員活動による「ムダ取り全社活動」の推進効果もあり、前年比130%の業績回復、黒字転換を果たしました。
3年間落ち込んでいた業績のカーブが右肩上がりの黒字になり、これをさらに持続的に伸ばしていくにはどうしたらいいかが当社の課題でした。

その課題を解決するためには、従業員のモチベーションアップも含め、個人の成長を支援することが必要であり、これを実施することで会社の成長にも繋がっていくと考え、役割等級制度と人事評価制度を軸とした新人事制度を導入しました。社員一人ひとりが、将来なりたい姿、ありたい姿の実現に向けて努力し、会社はその実現に向けて社員に寄り添って支援し、個人と組織が共に成長しようというものです。
具体的には社員に求める人材像と具体的な成果や行動を明示する役割等級制度と評価制度、新たな賃金制度などです」

社員一人ひとりに寄り添った目標管理制度の制定に伴う、セルフ・キャリアドックの導入決定

リリースした新たな人事制度の運用にあたっては、会社としての事業計画の目標達成に向けて、社員一人ひとりの目標達成に向けた目標管理制度も立ち上げられました。この新たな目標管理制度の導入に際し、キャリアへの向き合い方について社員の方々の理解を進めるため、セルフ・キャリアドックの導入を決定されました。

水之江さん
「目標管理制度は、単に1年間の仕事の目標達成に向けて努力をするだけでなく、社員一人ひとりが3年後にどうしたいか、どうありたいか、そのためにはこの1年間何をどう頑張りたいのかという目標を立てるものです。なりたい自分に向かって努力をし、その積み重ねで成長していただきたいというのが、制度の意図したところです。

ところが、対象となった45人ほどの正社員は、これまでにキャリアの棚卸しなどを考えたことがなかった人がほとんどでした。そうした社員の方々に、急に来年、再来年どうするか、それにどう向き合うかを尋ねるのは乱暴な話ではないかと考えていました。
そんな折り、京都キャリア形成・学び直し支援センター(現 キャリア形成・リスキリング支援センター)から、セルフ・キャリアドック導入の誘いがありました」

半兵衛麸では2022年に主任職10人を対象としたセルフ・キャリアドックを試験的に行っていました。同社が、従業員の育成・キャリア形成などの情報収集を行っている中で、京都キャリア形成・学び直し支援センターからセルフ・キャリアドックの紹介を受けたことがきっかけでした。
そうした経緯もあり、社員のキャリア形成のきっかけづくりとして、2023年8月にセルフ・キャリアドックの全社的な導入に踏み切りました。

▼セルフ・キャリアドックとは

セルフ・キャリアドックとは、キャリアコンサルティング面談と多様なキャリア研修などを組み合わせて、企業の人材育成ビジョンや方針に基づき、従業員の主体的なキャリア形成を促進・支援する取組のことです。
従業員にとってはキャリア形成支援で働きがいを見いだし、モチベーションを高められるというメリットがあり、企業にとっては従業員一人ひとりのパフォーマンス向上によって組織が活性化し、生産性が高まるというメリットがあるというように従業員と企業、双方の課題解決が期待できるのが特徴です。

キャリアの振り返り、今後のプランを考えるきっかけとなったジョブ・カード

セルフ・キャリアドック実施前に、ジョブ・カードを使って、なりたい自分、ありたい自分を見つけるためにキャリアの棚卸しを行い、主体的なキャリアビジョンを明確にする必要があります。そのためのキックオフとしてキャリアデザインセミナーを2023年8月9日に開催しました。

好結果が得られたジョブ・カード作成後の従業員の反応

水之江さん
「キャリアデザインセミナーには正社員全員39人(管理職10人、一般社員29人)が参加しました。このセミナーは、セルフ・キャリアドックの準備段階として設定しました。内容は主に、【職務経歴 業務の振り返り】【強みや弱みの整理】など、ジョブ・カードの書き方、使い方の説明です。
さらに対象者全員への人事面談では、セミナー後に実施をしたキャリアコンサルティングで判明した課題などを丁寧にフォローしました。前年に受講した社員以外は初めての経験でしたが、真摯に取り組んでいただいたことが印象に残っています。また前年の試験的な実施は、キャリアの棚卸し、自分の考えを言葉にする試み、今後の目標、互いの理解の共有などが深まり、キャリア形成支援の流れに結び付く大きな力になりました」

ジョブ・カードを作成し、セルフ・キャリアドックでキャリアコンサルティングの実施結果報告書では以下のような反応が得られています(抜粋)。

  • 自分の考えが明確になった点があった
  • 自分のこれまでを振り返ることができた
  • これまで歩んできた道をどこにつなげたいか具体的に考えることができた
  • 次へ進む目的が明確になりつつある

また、ジョブ・カードの利用がキャリアの棚卸しにおいて有効であるかについては、「大変有益」が16人、「まあまあ有益」が18人と好結果を得られました。

セルフ・キャリアドックで、課題と対応が見えてきた

水之江さん
「記入したジョブ・カードをもとに、2023年8月22日にキャリアコンサルティングが行われ、個人の目標設定をより明確化しました。面談から得られた社員の全体的な傾向は次のとおりでした」

  • 将来に向けたキャリアアップは望んではいるが、管理職などの役職に就きたいと考えている人は少ない
  • 仕事に前向きに取り組み、長く勤めたいと考えている
  • やりがいを感じている。新しいことにもチャレンジしていきたいと感じている
  • コミュニケーション不足から業務量増加に繋がっていると感じている

こうした傾向を受けて水之江さんは
「キャリアコンサルティングの実施結果報告で、①キャリアパス ②コミュニケーション ③マネジメント研修 ④業務の標準化 ⑤社内提案制度 などについて課題が指摘されました。
①のキャリアパスについては、職種別の人材育成の取り組みをまとめ、展開をスタートさせています。
例えば、販売部門に対しては、販売スキル向上についての取り組み方針を策定し、他の部署も順次取り組む予定です。
②のコミュニケーションについては、職場懇談会を実施するようにしていますが、部署によってミーティングの頻度にばらつきがあります。話し合う機会が少ない部署にはテーマを作成してコミュニケーションが深められるようフォローしています。
③のマネジメント研修は人事制度の理解と実践ということで目標管理や評価などの研修を実施しました。
そのほか、④業務の標準化、➄社内提案制度の活性化は順次取り組む予定としています。
こうした課題とその対応が見えてきたことはセルフ・キャリアドックの大きな成果のひとつでした」と語ります。

キャリアコンサルティングに対する受講者の感想

ジョブ・カード同様、キャリアコンサルティングについても受講者からさまざまな声が寄せられました。

  • ジョブ・カード作成時に気付かなかったことが得られた
  • 自分の悩みに対してアドバイスが得られた
  • これからの不安感がなくなり、やるべきことが見えてきた
  • 今後、どうなりたいかがちょっとずつ見えた気がした

上記のような前向きの実施結果報告があり、それらから

  • 自身の働き方に関する問題・課題の解決に繋がる
  • 自身のキャリアの振り返りができる
  • 自身の強み・弱みが明確になる
  • 今後伸ばしたいスキル・能力が明確になる

という判断に至りました。水之江さんは「ジョブ・カードを使ったキャリアコンサルティングによって、一人ひとりのキャリアを作っていきたいという気持ちが認識できたことはものすごくよかった」と笑みを浮かべていました。

キャリア支援の継続とセルフ・キャリアドックのメリット

同社では社員に、組織を信頼し、個人・組織の成長に向け取り組んで欲しいと考えています。その結果として、仕事が楽しい、わくわく感を覚える、地域や会社に貢献したい、成長したいなど、働きがいややりがいのある世界を一人ひとりが作っていくことに繋がるとし、また、会社と上司はその実現に向けて支援をしていくことが大切であるとしています。

水之江さん
「セルフ・キャリアドックによるキャリアコンサルティングは2024年以降も実施します。それに向けて、全従業員約100人の業務カルテのようなデータを作成しました。一人ひとりのデータをもとに、面談を通じてそれぞれが抱える業務課題を一つひとつ解決し、それに併せて継続したキャリア支援を進めています。
社員一人ひとりがやりたいことを考え、今できることを認識し、そのギャップを埋めていくよう少しずつ前向きに努力し、求められる役割を十分果たしていくことが大切だと思います。そのプロセスそのものが個人の成長への道筋だと思います。多様性の求められる環境だからこそ一人ひとりの個を主役にしたセルフ・キャリアドックは有効だと思いました」

今後の展望について

水之江さん
「コロナ禍後の事業の成長は現在の大きな課題です。事業の成長とは、幅広いお客様からの支持をいただき、全員で京麸、京ゆばの可能性を追求して全員で事業を発展させることです。そのために、取り組んでいきたい課題として、一人ひとりが豊かな個性を発揮し、働きがいのある仕事、職場作りを通じてエンゲージメント向上を図っていくことが重要です。
このエンゲージメント向上への取り組みはもっとも大切なテーマと考えています。
今回のキャリアコンサルティングによって、「社内キャリアパスが描けていないこと」がもうひとつの大きな課題として指摘され、その対応として一人ひとりの確実なキャリア支援の必要性が浮き彫りになりました。とくに製造・営業などではキャリア支援として、プロ専門人材としての方向性、目指す姿を構築しながら、少しずつ成長を果たしていけるようにすることの大切さを再認識できました。セルフ・キャリアドックの有用性を実感しながら、それぞれの部門で従業員に寄り添ったキャリア支援に取り組んでいます」

まとめ

持続的な黒字経営を推進するために立ち上げた新人事制度。それを達成するための具体的な行動手段として位置づけた目標管理制度の運用に、ジョブ・カードを使ったセルフ・キャリアドックが導入されました。
導入によって、従業員一人ひとりの課題解決の糸口が見え、将来に向けての準備を考える機会が得られたことは大きな成果でした。従業員が、3年後の自分の姿=なりたい自分、ありたい自分を実現するきっかけとして、ジョブ・カードとキャリアコンサルティングによるセルフ・キャリアドックは大きな力になりました。

従業員一人ひとりの働く意識を高めることで組織全体の活性化や業績向上が期待できるセルフ・キャリアドック、ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょう。

【企業情報】

株式会社 半兵衛麸
京都市東山区にある京都の伝統食材である麸・ゆばを製造販売する会社。元禄2(1689)年、宮中で料理番をしていた玉置半兵衛が創業。焼き麸、なま麸などを通じて京都だけでなく日本の文化、伝統、これからの京都や食文化について考え、麸や料理の啓発に取り組んでいる。本社ビルには「本店」や「Cafeふふふあん」のほか「茶房 半兵衛」「お辨當箱博物館」を併設。

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マイジョブ・カードのアカウント登録をすると、作成したジョブ・カードを保存し、いつでも修正することができます。
アカウント登録をして定期的にジョブ・カードの見直しや確認を行いましょう。

※アカウント登録後・ログインせずにジョブ・カードを作成した場合、保存するにはダウンロードしたうえ、アカウント登録・ログインしてアップロードする必要があります。

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